打ちのめされるようなすごい本
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書名:打ちのめされるようなすごい本
著者:米原 万里
発行所:文春文庫
頁数:372頁
発売日:2009年
定価:865円
電子本
この本は横浜市図書館の電子本貸し出しサービスで偶然見つけた。米原万里さんは亡くなる何年か前、武蔵工業大学で市民講座の講師として見えたとき初めて知った。その後米原万里さんの本はいろいろ読んだ。米原さんの妹井上ユリさん(井上ひさしの妻)と知人宅でお会いしたこともある。井上ひさしの残した蔵書を寄付したいのだけれど、受け取ってくれるところがないと言っておられた。
この本は1995年~2005年までの10年間の全書評を収録した書評集です。米原万里さん舌鋒は鋭く、はっとさせられる言葉が続く。「秀才は模範解答を書こうとする。自由主義が流行れば自由主義の、軍国主義が流行れば軍国主義の模範解答を書くような人間が指導者になった。」と本質を突いた言葉にあっと驚く。そしてこれらの書評から漂ってくるのは、よく本を読んでいる。本人の弁にも「1日7冊」というのがあり、本当?でもよく読んでいると思う。この書評などを読むと随所にその教養があふれている。
米原万里は「卵巣癌」であり、転移の疑いがあると診断される。近藤誠の影響を受けていた米原は開腹手術による摘出、抗癌剤投与、放射線治療を拒否し、いわゆる民間療法にて免疫賦活などを行う。1年4ヶ月後には左鼠径部リンパ節への転移が判明し、手術を提案されるが拒否。温熱療法などを試みる。そんな闘病生活の中「ああ、私が10人いれば、すべての療法を試してみるのに」と癌に関する本執拗にを読んでいた。その量と速さは凄い。
人の考えはいろいろあるが、癌になったときいろいろ調べ廻った結果、保険で診療できる治療方法が一番進んでいる治療。標準治療という言葉に、何となく特別な治療じゃないと感じてしまうようです。だからインテリ、お金持ちは標準治療、健康保険での治療は低級な治療だと思って、それ以外の方法を試してみたくなるようです。それで旨くいく場合もあるし、駄目な場合もあり、それぞれですが、標準治療という言葉に騙されないようにしたいと思う。標準治療というのは今の医学で一番進んでいる方法だということを覚えておこう。
米原万里はガンにより56歳で亡くなるが、ガンの告知を受けた後も、死の直前まで書評を書き続ける。必死に本から病についての情報を得ようとする姿、知ることへの渇望に圧倒され、まさに打ちのめされるような衝撃を覚える。