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坂口志文博士と多田富雄博士の免疫学における関係

 

坂口志文博士と多田富雄博士
免疫学における師弟の絆と研究の継承

2025年のノーベル生理学・医学賞の受賞が決まった坂口志文博士と、2010年に亡くなられた多田富雄博士は、日本の免疫学の歴史において非常に重要な関係にあります。直接的な師弟関係とは少し異なりますが、その研究と思想は深く結びついており、多田博士が提唱した先駆的な概念を、坂口博士が現代的な手法で証明し、発展させた「研究の継承」と呼ぶべき関係です。

多田富雄博士の先駆的研究:免疫を抑える「サプレッサーT細胞」

多田富雄博士は、1971年に「免疫反応は常にアクセル全開ではなく、ブレーキをかける仕組みがあるはずだ」と考え、免疫反応を抑制する「サプレッサー(抑制性)T細胞」という概念を世界で初めて提唱しました。 [1, 5, 9] 当時、免疫は異物を攻撃する「アクセル」の役割ばかりが注目されていたため、この「ブレーキ」の存在を指摘したことは、世界の免疫学界に衝撃を与え、ノーベル賞級の業績と高く評価されました。 [1, 9]

しかし、「サプレッサーT細胞」は、その存在を証明するための具体的な目印(分子マーカー)が見つからず、再現性のある実験も難しかったため、1980年代にはその存在自体が疑問視され、科学界の主流から外れていきました。 [6, 11]

坂口志文博士の画期的な発見:「制御性T細胞」の実体解明

一方、坂口志文博士は、免疫が自分自身を攻撃してしまう自己免疫疾患がなぜ起こるのかを研究する中で、「免疫の暴走」を止める細胞が必ず存在するはずだと信じ、研究を続けました。 [11]

そして1995年、ついに免疫のブレーキ役を担う細胞の目印となる分子を発見し、この細胞を「制御性T細胞(Treg)」と名付けました。 [8] さらに2003年には、制御性T細胞の機能を決定づける重要な遺伝子「Foxp3」を特定し、その存在と機能を科学的に完全に証明しました。 [8, 14] これにより、かつて多田博士が夢見た「免疫のブレーキ役」の実体が、ついに世界中の研究者の前に姿を現したのです。

研究の継承:忘れられた概念への再評価と発展

坂口博士の「制御性T細胞」の発見は、多田博士が提唱した「サプレッサーT細胞」の概念が正しかったことを、四半世紀の時を経て証明するものでした。 [12] 坂口博士自身も、多田博士らの仮説に影響を受けていたことを認めています。 [11] まさに、先駆者のアイデアを後の研究者が最新の技術で証明し、さらに飛躍させた学問の理想的な発展形と言えます。

「免疫反応を抑える細胞があるという仮説は、東京大学多田富雄先生らによって既に提唱されていました。『抑制性T細胞(Suppressor T cell)』と名づけられたその細胞は世界中で注目を集めていました」- 坂口志文博士

この発見により、一度は忘れ去られかけた「免疫抑制」という分野が再び脚光を浴び、自己免疫疾患、アレルギー、がん治療、臓器移植といった、現代医療が直面する多くの課題に対する新たな治療法の開発へと繋がっています。 [11, 14]

二人の関係と研究の関連性まとめ

  • 概念の提唱者(多田富雄):1970年代に「免疫にはブレーキ役の細胞(サプレッサーT細胞)がある」という画期的なアイデアを世界で初めて提唱しました。 [1, 3, 9]
  • 概念の実証者(坂口志文):1990年代から2000年代にかけて、そのブレーキ役細胞の実体である「制御性T細胞(Treg)」を発見し、その目印となる分子(Foxp3など)を特定して存在を証明しました。 [2, 8]
  • 研究の継承:坂口博士の発見は、一時的に下火となっていた多田博士の理論の正しさを証明し、免疫抑制の研究を飛躍的に発展させるものでした。 [12]
  • 学術的インパクト:多田博士が扉を開き、坂口博士が道を切り拓いたことで、「免疫を抑える」という視点が、がん免疫療法や自己免疫疾患の治療など、現代医療の最前線で不可欠なものとなっています。

結論

坂口志文博士と多田富雄博士の関係は、一人の天才のひらめきが、もう一人の天才の粘り強い研究によって花開いた、科学史における美しい物語です。多田博士の先見性と、それを受け継ぎ見事に実体を解明した坂口博士の功績は、共に日本の免疫学が世界に誇る金字塔と言えるでしょう。

[1] 時事用語事典 (2010-04-21) | [2] Wikipedia (坂口志文) | [3] 新潮社 (多田富雄 著者プロフィール) | [5] imidas (2008-08-28) | [6] Wikipedia (多田富雄) | [8] 速水はじめ 公式サイト (2025-10-06) | [9] 日本免疫学会 | [11] JT生命誌研究館 | [12] Yahoo!リアルタイム検索 (X 旧Twitter) | [14] 5ちゃんねる掲示